外に出たとたん、遺跡内の熱気などすぐに忘れるほどの本物の暑さが私と迅璃の体を締めつける。
だが、第二熱帯夜高等学校の制服がその圧迫を和らげてくれる。この制服の完成度が、まるで完全無欠の鎧のように心を落ち着かせ、熱帯夜にも耐えられる力を与えてくれる。迅璃も同じらしく、暑さに苛立つ様子はなく、涼しげな表情で歩みを進める。
私たちはまず歩き出した。
動かなければ、何も始まらないからだ。
歩きながら、ふと、迅璃も同じことを感じているのではないかと思う。
私のCPUではなく、この制服が私の体を動かしているような、不思議な感覚に囚われる。
それは心地よい逆転現象だった。
まるで私が制服に使われているのではなく、制服が主人で私が従者になったかのようだ。この新鮮な感覚に、私はむしろ歓迎の気持ちを抱く。
思考を意図的に停止し、制服に身を委ねてみるのも悪くない。
そう思いながら、迅璃に声をかける。
「これから、どこへ行く?」
迅璃は、制服に心を奪われたような表情からふっと我に返り、普段の彼女らしい落ち着きを取り戻して答える。
「トロピカル・ナイト・シティの国境だよ」
彼女は言葉を続ける。
「まだ私たちの物語は終わってない。警察に追われてるし、何より、燏君、残り時間はあとわずかでしょ?早くこの街を出て、太陽を拝まないと、死んじゃうんだから」
「そうだ」
記憶喪失の霧が晴れるように思い出す。
「この街を出ないと、私は永久に壊れる」
私はわざとらしく、制服に向かって話しかける。
「聞いた?もうすぐ私が死ぬよ。私が死んだら、君はもう着られなくなる。それは嫌だろ?」
すると、制服が全身をぎゅっと締めつけるように反応した気がした。まるで共鳴するかのような感覚だ。
「だから、早く行こう。この街の外へ」
私たちは速度を上げ、走り出す。ワルツで感じたように、この制服は伸縮性に優れ、動きやすさが抜群だ。格好良く、機能的に作られたその生地は、ボディのアクチュエーターと共鳴し、電磁石がよりスムーズに回転するような感覚を生む。
迅璃も楽しげに私のペースに合わせて走る。高性能なヒューマノイドロボットである彼女は、速さでも引けを取らない。
このまま国境まで走り続けられそうな気分になるが、気分だけではどうにもならない。
「やっぱり移動手段が必要かな」
私が言うと、迅璃が即座に答える。
「バスに乗る?それとも電車?」
「公共交通か」私は頷く。「どっちが国境に早く着くと思う?」
迅璃が0.02秒ほど計算する。
「リムジンバスなら一発で国境に行けるけど、他の停留所に寄るから少し遠回り。電車は経路自体は速いけど、乗り換えが面倒。実は私、電車に慣れてなくて、乗り間違えたらやばいかも」
「じゃ、電車にしよう」
「え、聞いてた?私、電車苦手だよ」
迅璃が本気で嫌そうな顔をする。
だからこそ、私はあえて言う。
「その苦手意識を克服するためにも、電車に乗ってみたら?」
「もう、燏君ったら」
迅璃は苦笑いしながらも、首を縦に振ってくれる。
制服もまるで同意するかのように、私たちの決断に合わせて軽く揺れた気がした。
こうして電車を選び、私たちは駅へ向かった。
駅に着き、蜃気楼1号線の終点――国境までのチケットを買おうとするが、問題が発覚する。全財産がまた暴落し、ほぼゼロに収束していたのだ。
無一文と変わらない状況に陥っていた。
「全くお金がないけど、どうする?」
私がぼんやり尋ねると、迅璃は3秒ほどじっくり考え込み、駅内のWi-Fiを使って周辺情報を検索してから答える。
「駅内にカジノがあるみたい」
「カジノか……」私は首を傾げる。「でも、外国のヒューマノイドロボットじゃないと入れないんじゃなかった?」
「外国に出ようとするヒューマノイドロボットなら入れるよ」
迅璃はすでに調べてあったらしく、自信を持って言う。
彼女が送ってくれたデータをホログラムで確認し、すぐに納得する。
「そうか。私たちはこの街をすでに『外国』とみなしてるから、入れるね」
「うん。じゃ、早速行こう」
「でもさ、」私は続ける。「カジノで一儲けしようとしても、シードマネーがないとゲームを始められないよね?」
「それは大丈夫かも」
迅璃が密やかに耳打ちしてくる。鼓膜センサーがくすぐったくなるような声だ。
「私たちの制服が、チップの代わりになってくれる可能性が高いよ」
「そうか」
決まれば話は早い。私たちはすぐさまカジノへ向かった。