結構高いところから落ちてきたせいか、着地した際にかなり大きな音と衝撃を立てたので、これで大丈夫なのかと一瞬心配になった。 だが、綿あめの蛹は見た目とは裏腹に頑丈らしく、その中に封じ込められたように眠るカナは、眠りから目覚める気配もなく、なおもすやすやと静かな寝息を立てているようだった。 しかも、ほぼ垂直に投げつけられた初球の頭は、私のいる場所からそう遠くないところに転がり落ちたので、すぐに目に入った。 声もはっきり聞こえてくる。 「うまくいったの?」 初球の頭が尋ねてくるので、私も声を張って返事をする。 「ああ、無事に落ちた。ありがとう!」 「じゃ、早く開封してみて!」 まるで新品の商品を解体するような、ショッピング中毒者のようなワクワクした誘いに押され、私は思わず唾を飲み込み、綿あめの方を見下ろした。 カナは静かで、胸を小さく上下させながらまだ眠り続けていて、それを包む綿あめは地面に落ちた際に付着したコバルト色の粉塵がデコレーションのように散りばめられ、まるで一つの食べ物でできた芸術品のような視覚的な魅力を放っていた。 私は本題を忘れて、つい五秒ほどその光景に見入ってしまう。 「早く!」 ありがたいことに、遠くからの初球の頭の叱咤のおかげで、ふと我に返ることができた。 そして、私はようやく両手をカナを包む綿あめの方へ伸ばし、それを掴んだ。 落ちてきた時は意外と弾力のある素材かと思ったが、いざ触れてみると、本当に綿あめそのもので、ふわふわとした感触が指先に広がり、あっけないほど簡単にほどけた。 まるで水に溶かすように、儚く崩れ落ちる。 溶け崩れたピンク色の綿あめの糸は、たちまち色褪せて透明になり、やがてシロップのような膜となってカナの全身を覆うように広がった。 カナの体はつるつるとした光沢を帯び、まるで砂糖でコーティングされたりんご飴のように甘ったるい印象を残し、まだ外の世界から断絶されたままの、密封された眠りに沈んでいるようだった。 だから、まずその膜を剥がす前に、甘い眠りの中に落ちたカナをそのままにしておいて、私は先に初球の頭のところへ行き、あいつを拾い上げた。 「用済みのまま捨てられるのかと思ったよ」 私の手に持ち上げられた初球の頭が、早速声をかけてくる。 声には安堵がにじんでいるが、どこか失望の色も混じっていて、少し戸惑ったが、私はまあ、こう言ってやった。 「まだ用済みじゃないから」 「そうか」 すると初球の頭の声が、元通りというか、明るくなったというか、失望の色が薄れていった。 そして、私は言った。 「これからカナを起こすけどさ、カナには私がヒューマノイドロボットだってことを、絶対に言うなよ」 「え? どういうこと?」 初球の頭が、あっけにとられたような目つきで私を見下ろす。 「あんた、ヒューマノイドロボットでしょ?」 「そうだよ。そうだけど、これから会うカナという子には、人間ということで通しているから、私のことを人間だと信じているし、そう認識しているから」 「なんで?」 「成り行きで」 「いや、いや、いや……」 初球の頭は首もないくせに、首を横に激しく振った。 「どういうこと? 全く理解できないんだけど。じゃ、お前、あのカナというヒューマノイドロボットの女の子に、自分が人間だって嘘をついたってことか?」 「そうなる」 「マジかよ……」 びっくりしたように、一文字二つの目がまん丸になる。 「君、死にたいわけ? いや、その前に、どうやって嘘がつけたの? 制限されてないの?」 私はこめかみを掻きながら、淡々と答える。 「私って、かなり古いモデルだから、多分システムにいろいろとバグが出始めているみたいなんだ」 「いや、これはバグのレベルじゃないと思うけど。君、壊れるよ。いや、バグってる時点ですでに壊れてることになるけど、いや、こんなレベルまで壊れたヒューマノイドロボットは初めて見たよ。さすがに昔々人間たちが月にいた時代でも、嘘を吐くことが出来るヒューマノイドロボットは一人も見たことがない。これは研究対象になるかもしれない」 「研究か」 私は苦笑いを漏らす。 「やはり研究目的で開発されたマシンということはあるね」 「非常に興味深いね」 本当に、なんというか、好奇心という第二の本能をものすごく刺激されたみたいで、初球の頭はたちまち、何というか、私に惚れたかのような妙な目つきになっていた。 「わかった」 初球の頭が続けた。 「カナという女の子には、君がヒューマノイドロボットだということを絶対に言わない。その代わりに、条件がある」 「なに?」 「その前に、まだ私のことに対して用済みじゃないって言ったよね。私をどこに使うつもりなの?」 「移動手段として使いたいんだ」 私は説明する。 「実は私とカナは地球に行きたくてさ、地球に行く 貨物船、つまり月から生産されたヒューマノイドロボットを地球に運ぶ貨物船に紛れ込んで、地球に行こうとしていてさ、でも貨物船があるところまでかなりの距離があるから、到底走っては行けそうにないから、乗り物が欲しかったんだ」 「そこで月面ローバーに目をつけたってわけね」 「そういうこと」 「ふむふむ」 初球の頭は頭しかないくせに首を縦に何度か振ってから、言う。 「でも、私って、今頭しかないよ? 乗れないよ」 「それは、今から何とかこの真空深海の中で材料というか、部品を集めて何とか組み立てればなんとかなると思うんだ」 「たやすいことはないと思うけど。なんかそういうの得意なの? エンジニアリング? というのかな」 私は、私の両手にはめられている、カナが作ってくれた手袋を一手ずつ初球の頭の目の前に移して見せたりしながら説明を続ける。 「私はあんまり得意ではないけど、カナが何かを作るのがどうやら得意らしくてね。この頑丈で素敵な手袋もカナが作ってくれたんだ。このクレーターの中のゴミの山から材料を集めて、それも瞬時に作ってくれたんだよ。凄いだろ?」 「これは確かにすごいね」 手袋を見て感心したような声を上げる初球の頭。 「本当にできの良い手袋だね。これなら、そうね、私の体を元通りに、いや、もとよりもっとかっこいい月面ローバーに仕上げてくれるかもしれない!」 初球の頭の目に希望というか、興奮の色がぱっと広がるのが見えた。 「じゃ、早速カナのところに行って、彼女を起こすことにするか」 「うん!」 そうやって私たち二人は、まだまだカナが甘く眠っているところに行った。 そして二人してすやすやと横になっている透明な光沢を放っている、まるでラミネートでもされたかのようなその新品的な感じのカナをしばらく見下ろす。 このパッケージを開ける前に、私はまた念を押した。 「絶対に忘れないで。カナには内緒だよ」 すると初球の頭は、手もないくせに片手で軍人みたいにしっかりと敬礼をするジェスチャーをしながら勢いよく答えた。 「合点承知!」