第1部 出会い第08話

時速666kmの大型トラック


 アダムはコンビニで買い物をした。
 ユーザーの指示通りに、麦茶と新発売のカスタードプリンを手に取る。
 レジで会計を済ませて店を出る。
 袋を片手に提げ、道を歩く。
 横断歩道の前で足を止め、赤信号が変わるのを待つ。
 信号が赤に変わった瞬間、彼は車道へと一歩踏み出した。
 その刹那――突発的な異変を検知する。
 一台の車が、アダムの方へと猛スピードで突っ込んできていた。
 それは運転席の高い、大型のトレーラートラックだった。
 車が歩道に飛び込んでくるなど、あり得ない。
 制御系の致命的な不具合か、あるいは深刻なシステムエラーでも起きたのだろう。
 だが、運転席に目を向け、そこに座る者の姿を捉えた瞬間、アダムの演算回路に一瞬の空白が生じた。
 人間。
 人間が、運転をしている。
 人間の運転は、法律で禁じられて久しい。
 数千年も前のことだ。
 とにかくアダムは即座に、自身の演算能力をフル稼働させた。
 トラックの速度は時速666kmに達しており、さらに加速を続けている。
 そして二人との距離はすでに300mを切っていた。
 このままでは、遅くとも1.6秒後には衝突することになる。
 アダムはトラックの前面面積や突入角度、自身のボディの可動域、出力、そして物理力学的な諸条件を網羅し、約1億回に及ぶシミュレーションを瞬時に実行した。
 その結果、導き出された結論は――
 回避不能。
 アダムは断念し、悪あがきする代わりにこの貴重なデータを収集することにした。
 自身のシステムを司るマザークラスターへ転送するだけの猶予は、アダムには十分に残されていた。
 一秒にも満たないその時間は、彼の演算能力をもってすれば、膨大なデータを送信するには余りあるもの。
 そうしてすべてのタスクを終えたアダムは、時速666kmで突っ込んできたトラックに、真正面から派手にはね飛ばされた。

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